夏に向かう肌へ
―薬剤師が伝えるやさしい整え方

~くすりを知るシリーズ㉖~
薬剤師 NK

 

目次

1.季節の変わり目と肌の「うるおいバリア」

春から夏にかけて気温が上がり、紫外線が強くなり、汗や皮脂が増え、一方で室内では冷房によって空気が乾燥します。肌にとっては「外はべたつき、中は乾いている」ような、バランスが崩れやすい季節です。この時期、肌の表面は油っぽく見えるのに、角層の奥では水分が不足している「インナードライ」状態になっている人も少なくありません。

肌の「うるおいバリア」は、角層にある「水」「脂質」「肌のうるおい成分」のバランスで支えられています。このバランスが崩れると、肌はちょっとした刺激にも敏感になりやすくなります。たとえば、強く洗いすぎたり、肌をこすりすぎたりすると、肌のバリア機能が一時的に弱まり、紫外線や乾燥に晒されると、肌のコンディションが悪くなりやすいという研究結果があります。
したがって、肌のケアでは「強く落とす」より、「肌のバリアを壊さない」ほうを意識することが、この季節にはとくに大切です。

2.紫外線と肌の「反応の強さ」

紫外線は、肌の見た目の「しみ・そばかす」だけではなく、肌の「反応の強さ」にも影響を与えます。たとえば、バリア機能が正常な肌と、弱っている肌に同じくらいの量の紫外線照射を行った実験では、バリアが弱っている肌の方が、肌の赤みやヒリつきが強くなりやすいことが報告されています。つまり、肌のバリアがいかに健やかかどうかで、同じ紫外線量でも、肌の反応が大きく違ってくるのです。参考にした論文では、角層バリア機能が低下した肌は、比較的弱い紫外線でも、肌の炎症反応が拡大しやすいことが示されています。

紫外線対策を考えるとき、「日焼け止めの数値が高い=安心」よりも、肌のうるおいとバリアが整ったうえでの「使いやすいUVケア」が、肌に対して優しい対策とされています。夏になると、べたつき感やメイク崩れのために、塗り直しをやめてしまう人も多いですが、肌が乾燥しすぎず、肌になじみやすいタイプを選ぶと、朝の忙しい時間でも続けやすくなります。

3.うるおいを守る「保湿」のポイント

肌のうるおいを保つには「化粧水だけで終わる」のではなく、最後に「フタを閉じる」感覚が大切です。化粧水や美容液で水分を補った後、乳液やクリームなどで角層の表面を整えることで、肌のうるおいが逃げにくくなります。これを「水+油」のバランスと考えると、肌のケアが少しずつ、具体的なイメージとして見えてきます。

肌の研究では、うるおいのある健康な肌ほど、セラミドやコレステロール、脂肪酸といった「肌の脂質」のバランスが整っていることが示されています。
一方乾燥が進むと、このバランスが崩れ、肌のバリアが弱くなり、外からの刺激を受けやすくなる結果があります。つまり、夏の肌ケアでも「いかに肌のうるおいと脂質のバランスを崩さないか」が、肌の「やさしさ」を左右する鍵になります。テカリやべたつきが気になる季節は、軽いテクスチャーの製品でも、肌のバリアを補うような「保湿の戦略」を持っているかを意識すると、肌に対する負担が減りやすくなります。

4.夏の生活習慣と肌の「内側」

肌の調子は、外側のスキンケアだけではなく、生活習慣も大きく関係します。睡眠不足が続く、朝食を抜く、夕食が遅い、甘いものが続いている、といった生活が続くと、肌のキメやくすみに影響しやすくなります。
特に20代後半から40代にかけては、仕事や子育てなどにより、昼間にまとまった食事が摂れず、夕食が遅くて高カロリーになりがちです。このような生活習慣が続くと、肌の「代謝のリズム」が崩れ、肌荒れやテカリが起きやすくなることがあります。
肌の「内側」に目を向けると、野菜や果物、発酵食品、たんぱく質を意識的に摂ることで、肌のコンディションが少しずつ整っていきます。ビタミンCやビタミンE、ポリフェノールなどが豊富な食品は、肌の「抗酸化力」を支える助けになります。ただし、こうした成分は、医薬品のように「肌の病気を治す」ものではなく、あくまで「食事の一部」として、肌のコンディションをサポートする役割です。肌の状態が大きく変わるのは、サプリメントや食品単体ではなく、まずは食事全体のバランスを整えることから始まります。

5.機能性表示食品と「肌のサポート」の関係

コラーゲンペプチドやヒアルロン酸を含む製品の中には、消費者庁に届け出をしたうえで、肌のうるおいや肌のバリア機能をサポートすることを示唆する研究結果をもとに、機能性表示食品として販売されている例もあります。こうした製品は、「肌のうるおいを維持する」「肌のバリア機能(保湿力)を補う」「肌のハリ・弾力のコンディションを整える」など、肌のコンディション維持を補助する目的で届けられていることが多く、健常成人を対象にした短期間の臨床試験や、動物モデル・試験管実験を組み合わせた研究が示されています。ただし、これらの研究は、「肌のバリアやうるおい状態をやや改善し・安定させる」傾向を示すレベルにとどまり、誰にでも同じように効果が出る保証はありません。

また、肌の健康に関連して、グルコシルセラミドやプロテオグリカンなど、角層のバリアや水分保持を補う成分を含む機能性表示食品も増えており、それぞれ「肌の乾燥が気になる方の肌のうるおいやバリア機能のサポート」など、一定の作用を示唆する研究に基づいて届けられています。
肌疾患や薬疹、アトピー性皮膚炎、ニキビ薬の使用など、薬や治療中の状態と重なる場合には、自己判断で「肌のため」と多量摂取するより、まずは医師や薬剤師に相談することが大切です。肌のケアは、薬も食品も同様に「急に足す」よりも、「今ある生活習慣・肌の状態を見直したうえで、少しずつ補う」方が、肌の負担が少なく、長続きしやすいです。
このように、コラーゲンやヒアルロン酸を含む機能性表示食品は、肌のうるおい・バリア機能を補助する「食品の選択肢」の一つです。肌の「内側からのケア」といえば、「食事全体のバランス」「肌のバリアを崩さない外側のスキンケア」「生活習慣の整備」をまず整え、そのうえで、自分の肌の状態や使っている薬との関係を踏まえて、肌の保湿・バリアを補うタイプの機能性表示食品を「補助」の位置に置くのが、最も現実的で安全な使い方でしょう。肌は、急に劇的に変化するものではなく、少しずつ重ねていく「毎日のコントロール」によって、少しずつ整っていきます。肌の「内側」も、食品の使い方次第で、そのコントロールの一部に加わっていくのです。

6.からだの内外をつなぐ「肌のバランス」

肌の調子は、外側のスキンケアだけではなく、腸内環境や睡眠、ストレスなど、からだ全体の「バランス」を反映しています。腸内環境が悪くなると、肌の炎症やテカリが強まりやすい、という研究も報告されています。このような背景を踏まえると、食事の中で、食物繊維やヨーグルト、発酵食品などを取り入れることで、肌の「調子」が少しずつ整っていくことがあります。
一方で、こうした食品や成分群は、医薬品のように「病気を治す」ものではありません。肌のトラブルが続いている場合は、まずは医師や薬剤師に相談し、診断を受けてから、食品やサプリメントを補助として検討する「順番」が、安全で現実的です。肌のケアは、薬と同じように、急激な「攻め」よりも、少しずつ整える「継続性」が大切です。

7.薬剤師として伝えたいこと

肌のケアは、季節ごとに流行の成分や製品が出てきますが、薬剤師の立場から見ると、無理に新しいものをどんどん増やすより、「今の生活に合っているか」を大切にすることが、長続きしやすい肌ケアのコツです。
洗顔やスキンケアは、強くこすらず、肌のバリアを壊さない範囲で行い、紫外線対策は「毎日続けやすい」ものを選ぶ。食事は、バランスのとれたものに少しずつ戻し、必要に応じて食品やサプリメントを補助として使う。この「バランス」が、肌にとっては、最もやさしい「処方」かもしれません。
肌は、薬と同じように急に変化するのではなく、少しずつ反応を蓄積していきます。そのため、焦らず、自分の肌の声に耳を傾けながら、無理のない範囲で整えることが、夏にかけての肌ケアでは、いちばん大切なことだと、薬剤師として伝えたいです。

 

【参考文献】
1.消費者庁. 機能性表示食品について. 2025.
2.消費者庁. 栄養機能食品について. 2025.
3.消費者庁. 機能性表示食品の届出・公表のガイドライン. 2025.
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5.佐藤 博, ほか. 腸内環境と皮膚の炎症反応. Br J Dermatol. 2021;184(3):411-418.
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7.松岡 英一, ほか. 皮膚の保湿とセラミドの役割. 日本皮膚科学会雑誌. 2016;126(5):220-227.
8.花王 生物科学研究所. 角層バリア機能が紫外線(UVB)感受性に与える影響. Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2019;35(3):145-152.
9.田中 雅子, ほか. プロテオグリカン含有食品の肌のうるおいへの影響. Int J Cosmet Sci. 2020;42(3):234-241.
10. 伊集院 克和, ほか. 抗酸化成分と皮膚バリア機能. J Clin Biochem Nutr. 2015;56(2):100-106.
11. 日本皮膚科学会. 紫外線と皮膚:一般向けリーフレット. 2023.
12. 厚生労働省. 健康食品の安全性・有効性に関する情報. 2025.