神経障害性疼痛治療における Gabapentin の現在地
― Tony L. Yaksh 教授の研究から見える、これからの疼痛診療とα2δリガンドの歩み ―
~くすりを知るシリーズ㉗~
薬剤師 NK
はじめに
神経障害性疼痛は、末梢神経や中枢神経が損傷したり、機能に異常が生じたりすることで起こる慢性的な痛みです。糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、脊髄損傷後疼痛、化学療法にともなう末梢神経障害など、原因はさまざまですが、いずれも日常生活に大きな影響を及ぼします。通常の鎮痛薬が十分に効かないことも多く、治療には薬物療法だけでなく、病態を理解したうえでのきめ細かな対応が求められます。
目次
1.GabapentinとTony L. Yaksh 教授
この領域で長く使われてきた薬剤の一つが、Gabapentinです。最初は抗てんかん薬として開発されましたが、その後、神経障害性疼痛に対する有効性が注目され、現在では治療の選択肢として広く用いられています。Gabapentinの特徴は、単純に「痛みを抑える薬」というよりも、神経の過剰興奮そのものを調整する点にあります。痛みが背景に、神経伝達の暴走ともいえる状態があるなら、その流れを上流で抑えることに意味があります。Gabapentinは、まさにその発想を体現した薬剤だといえるでしょう。
この理論的な土台を支えてきた研究者の一人に、米国(UCSD:カリフォルニア大学サンディエゴ校)のTony L. Yaksh教授がいます。Yaksh教授は、脊髄レベルでの痛み伝達や、薬物が中枢神経系にどのように作用するかを、長年にわたり研究されてきました。特に、髄腔内投与モデルを用いた疼痛研究の発展に大きく寄与し、神経障害性疼痛を「感覚の異常」としてではなく、「神経回路の変化」として捉える視点を広げた功績は大きいです。疼痛診療の現場でGabapentinが使われる背景には、こうした基礎研究の積み重ねがあります。
Gabapentinの作用機序は、電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットへの結合にあるとされています。これにより、興奮性神経伝達物質の放出が抑えられ、過敏になった神経回路の興奮が和らぎます。従来の鎮痛薬は、炎症や侵害受容を主な標的としてきたのに対し、Gabapentinは神経障害性疼痛特有の病態に寄り添った薬理作用を持っています。しびれ、灼熱感、電撃痛といった訴えが前面に出る患者さんでは、こうした作用が実感されやすいのではないでしょうか。
2.プレガバリンへの改良
Gabapentinは優れた薬理作用を持ちましたが、実臨床ではいくつかの課題もありました。吸収のばらつきが大きく、投与量と血中濃度の関係が線形にならず、効果の予測が難しい面がありました。また、半減期が短く、1日3回投与が必要なため、服薬コンプライアンスが課題となっていました。これらの課題を踏まえ、より安定した吸収と、より使いやすい薬物動態を持った薬剤が求められ、開発されたのがプレガバリン(リリカ)です。
プレガバリンも、同じくα2δサブユニットに結合するα2δリガンドですが、Gabapentinに比べて吸収がより予測可能で、バイオアベイラビリティが90%以上と高い点が特徴です。また、血中濃度と投与量の関係がほぼ線形であり、効果の予測がしやすいという利点があります。半減期もGabapentinよりやや長く、1日2回投与で管理できることが多く、患者さんの服薬コンプライアンスを高めています。臨床的には、プレガバリンはGabapentinに比べて鎮痛発現が早い傾向があり、初期治療や即効性を期待する場合に選ばれることが多いです。
さらにその後に登場したのが、ミロガバリン(タリージェ)です。ミロガバリンも、電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットに結合するリガンドで、末梢性神経障害性疼痛治療薬として2019年に承認されました。プレガバリンと作用機序は基本的に同じですが、化学構造や薬物動態に違いがあり、臨床現場ではさらに日本人に合わせた使い分けが進んでいます。ミロガバリンの特徴の一つは、プレガバリンやGabapentinに比べて、より低い投与量で効果を発揮する点です。また、プレガバリンに比べて、体重増加や浮腫の頻度がやや低いとする報告もあります。
3.薬学的にみる3剤の比較
| 特徴 | Gabapentin | プレガバリン(リリカ) | ミロガバリン(タリージェ) |
|---|---|---|---|
| 吸収のばらつき | あり(飽和型) | 少ない(線形) | 少ない(線形) |
| バイオアベイラビリティ | 約60%以下(量依存) | 90%以上 | 高い |
| 半減期 | 約3から5時間 | 約6時間 | 約3時間 |
| 投与回数 | 1日3回 | 1日2回 | 1日2回 |
| 鎮痛発現 | やや緩やか | 比較的早い | 比較的早い |
| 主な副作用 | 眠気、めまい、浮腫 | 眠気、めまい、浮腫、体重増加 | 眠気、めまい、浮腫(体重増加は少ない傾向) |
| 腎排泄 | 主 | 主 | 主 |
| 用量調整 | 必要(腎機能) | 必要(腎機能) | 必要(腎機能) |
このように、α2δリガンドは「Gabapentin → プレガバリン → ミロガバリン」と進化する中で、吸収の安定性、投与回数の減少、副作用プロファイルの改善が図られてきました。ただし、いずれの薬剤も「腎排泄型」である点は共通しており、腎機能に応じた用量調整は必須です。高齢者や腎機能低下者では、少量から開始し、忍容性を確認しながら増量する姿勢が、3剤共通の原則になります。

近年の話題としては、神経障害性疼痛治療全体が、単なる薬剤選択の問題から、病態ごとの個別化へと少しずつ進んでいる点が挙げられます。2025年にかけてのレビューでも、gabapentinoidsは依然として第一選択の中心に位置づけられる一方、効果は病態によってばらつきがあり、万能薬ではないことも再確認されています。特にGabapentinは、プレガバリンに比べると吸収のばらつきがあり、鎮痛発現までにやや時間を要することがあります。そのため、即効性を期待しすぎず、患者さんの背景に応じて、じっくり使う姿勢が大切になってきます。
安全性への意識の高まりも注目点です。gabapentinoidsは比較的使いやすい薬剤と思われてきましたが、高齢者や併用薬の多い患者さんでは、眠気や転倒リスク、認知機能への影響も無視できません。最近の報告では、gabapentinoidsの有害事象を改めて整理し、効果と安全性の両面から再評価する動きが見られます。薬剤師としては、単に処方を見て「いつもの薬」と判断するのではなく、その患者さんにとって本当に負担の少ない選択かを考える視点を持ちたいものです。
さらに、神経障害性疼痛研究そのものも変化しています。近年は、グリア細胞、脊髄後角の回路変化、痛覚伝達に関わる神経集団の再編成など、より細かな神経生物学的メカニズムに焦点が当たっています。Yaksh教授が築いた脊髄薬理学の流れは、そうした新しい研究にもつながっており、疼痛を「末梢から上がってくる信号」としてだけでなく、「中枢で調整される動的な現象」として理解する考え方を後押ししてきました。これは、神経障害性疼痛の治療が今後も、病態理解の深化とともに発展していくことを示しています。
実際の診療では、Gabapentin、プレガバリン、ミロガバリンのいずれを用いる場合でも、患者さんがその薬を継続できるかどうかが重要になります。痛みが少し和らぐことで眠れるようになり、外出が増え、会話が増える。そうした小さな変化が、慢性疼痛の患者さんにとっては、非常に大きいです。
薬剤師の役割は、処方された薬を渡すことにとどまらず、その変化を拾い上げ、必要に応じて医師へつなぎ、患者さんが治療を続けやすい環境を支えることにあります。そして、3剤の薬学的な特性を理解した上で、患者さんの背景に合わせて適切な薬剤を選択するサポートも、薬剤師の重要な役割の一つです。
4.おわりに
神経障害性疼痛は、今もなお治療に難渋することが多い領域です。それでも、Gabapentin、プレガバリン、ミロガバリンのような薬剤があることで、患者さんの痛みを少しでも和らげる道が開かれています。
Tony Yaksh 教授の研究は、その道筋を理論的に照らしてきました。痛みの仕組みを知ることは、単に知識を増やすことではありません。目の前の患者さんに対して、どのように寄り添い、どう支えるかを考えるための土台になります。薬剤師にとって、これらα2δリガンドの歴史とYaksh教授の仕事は、改めて疼痛治療の奥深さを教えてくれる存在だといえるでしょう。
※写真・イラストはすべてイメージ
【参考文献】
1. Soliman N, Moisset X, Ferraro MC, et al. Pharmacotherapy and non-invasive neuromodulation for neuropathic pain: a systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol. 2025;24:413-428.
2. Wiffen PJ, Derry S, Bell RF, Rice ASC, Tölle TR, Phillips T, Moore RA. Gabapentin for chronic neuropathic pain in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2017;6:CD007938.
3. Allegri M, Baron R, Hans G, et al. Pregabalin vs. gabapentin in the treatment of neuropathic pain. Front Pain Res (Lausanne). 2025;6:1513597. doi:10.3389/fpain.2024.1513597.
4. Yang F, Wang Y, Zhang M, Yu S. Mirogabalin as a novel calcium channel α2δ ligand for the treatment of neuropathic pain: a review of clinical update. Front Pharmacol. 2024;15:1491570.
5. Mirogabalin for Treatment of Neuropathic Pain and Associated Sleep Interference: An Updated Meta-Analysis. Eur J Pain. 2025;29(10):e70112.
6. Switching From Pregabalin to Mirogabalin in Patients with Peripheral Neuropathic Pain: A Multi-Center, Prospective, Single-Arm, Open-Label Study (MIROP Study). Pain Ther. 2021;10(1):711-727.
7. Yaksh TL. Tony Yaksh [Internet]. La Jolla (CA): University of California San Diego; 2021 [cited 2026 May 25]. https://profiles.ucsd.edu/tony.yaksh.html
8. Yaksh TL. Tony L. Yaksh, Ph.D. [Internet]. La Jolla (CA): University of California San Diego, Department of Pharmacology; 2021 [cited 2026 May 25]. https://pharmacology.ucsd.edu/faculty/department-faculty1/tony-yaksh.html
9. 日本ペインクリニック学会. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン.
10. 厚生労働省. 慢性疼痛治療ガイドライン.
次の記事へ



