痛風・尿酸値の新しい常識
―血管と腎臓を守り、10年後の健康を支えるために―
~くすりを知るシリーズ㉕~
薬剤師 NK
はじめに:「尿酸値が高い」は体からのサイン
「痛風なんて、お酒を飲みすぎるおじさんの病気でしょ?」
かつてはそう思われていましたが、2026年現在、尿酸値の見方は大きく変わりました。尿酸は単なる「燃えカス」ではなく、増えすぎると血管を傷つけたり、炎症を起こしたりする「体の異変を知らせるサイン」です。尿酸値を適切に保つ本当の目的は、足の痛みを防ぐことだけではありません。実は、心臓や腎臓といった「一生付き合う大切な臓器」をボロボロにしないために、全身の健康を守ることにあるのです。

目次
1.「体質」のせい?尿酸が出るルートの発見
「食事に気をつけているのに、どうして数値が下がらないの?」と悩む方は少なくありません。最新の研究では、尿酸が出るルートには「腎臓」だけでなく「腸」も大きな役割を果たしていることがわかりました。
① 腸は「第二のゴミ捨て場」: 尿酸の約3分の1は腸から外へ出されます。
② 日本人に多い「出にくい体質」: 日本人の約半数は、遺伝的にこの「腸からの出口(ABCG2という尿酸トランスポーター)」が狭いタイプだと言われています。
出口が詰まると、その分だけ腎臓に大きな負担がかかります。数値が下がらないのは、あなたの努力不足ではなく「体質」が関係しているかもしれません。だからこそ、自分の体質に合った正しい対策が必要なのです。
2.進化するお薬:ピンポイントで効く安心感
最近の治療では、尿細管における尿酸再吸収をピンポイントで阻害する新しいタイプのお薬(ドチヌラドなど)が主流になっています。
① 無駄のない効果: 腎臓にある「尿酸を回収してしまうトランスポーター(URAT1)」だけをピンポイントで閉じるため、効率よく尿酸を外へ出せます。
② 腎臓に優しい: 長く飲み続けることで、腎臓の働きが弱まるのを防いでくれるという心強いデータ(腎機能(eGFR)維持効果)も集まってきました。特に腎機能が気になる高齢の方にとって、非常に使いやすいお薬になっています。
3.2026年のトレンド:お薬を増やさない工夫
「これ以上、薬の種類を増やしたくない…」 そんな思いに応えるのが、最新の「ポリファーマシーへ配慮したスマートな処方設計」です。
例えば、血圧が高い方なら、尿酸値を下げる力も持っている血圧の薬(アンジオテンシン受容体拮抗薬:ロサルタンなど)を選んだり、糖尿病の薬(SGLT2阻害薬)の「おまけの効果」で尿酸を下げるなど、1つの薬で2つの役割をこなす工夫が進んでいます。自身の体への負担を減らしつつ、賢く数値をコントロールする時代です。
4.治療の始めどきに「お守り」を
お薬を飲み始めて数値が急に下がると、逆に「痛風発作」が起きやすくなることがあります(移動性痛風発作と呼ばれます)。これを防ぐのが、初期の数カ月間だけ一緒に飲む少量の「コルヒチン」というお薬です。いわば、体が新しい状態に慣れるまでのお守り。この「コルヒチン・カバー」と呼ばれる標準的なプロトコルがあることで、痛みを怖がらずに治療をスタートできます。
5.毎日の生活でできること:甘い飲み物にご注意
2026年の生活指導で、最も注意してほしいのは「アルコール」よりも「果糖(フルーツシュガー)」です。
① ジュースや甘いお菓子: 清涼飲料水などに含まれる「果糖」は、体内で尿酸を急激に作るスイッチを押してしまいます。
② おすすめは乳製品: 低脂肪の牛乳やヨーグルトには、尿酸を外に出しやすくする効果があります。
最近では、スマホの健康管理アプリで、食べたものと尿酸値の変化をグラフで確認できるようになりました(PHR:パーソナル・ヘルス・レコード)。数値が「見える化」されると、毎日の食事選びがもっと楽しく、前向きなものになります。
6.おわりに:尿酸値は「未来へのパスポート」
尿酸値は、あなたの体が発する「静かなメッセージ」です。その声をしっかり聴いて、お薬の力と生活のちょっとした工夫を組み合わせれば、血管も腎臓も健やかに保つことができます。私たち薬剤師は、最新の知識・技術(トランスポーター理論に基づいた精密な薬剤選択とデジタル技術を活用した生活指導)を持って、あなたにぴったりの「無理のない管理方法」を一緒に考えます。
10年後、20年後も元気に歩き、美味しいものを楽しめる未来のために、今日から新しい尿酸ケアを始めてみませんか?
【参考文献】
1. 日本痛風・尿酸核酸学会(編). 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版(2018年/2022年追補版). 東京: 診断と治療社; 2022.
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3. Matsuura H, et al. Effect of dotinurad, a novel selective urate reabsorption inhibitor, on serum uric acid levels. J Clin Med. 2019 Oct 3;8(10):1573.
4. Matsuo H, et al. ABCG2 dysfunction and serum uric acid: a genome-wide association study and functional analysis. Sci Rep. 2014 Nov 12;4:7022.
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7. Tanaka M, et al. Long-term renal protective effects of selective URAT1 inhibitors in patients with chronic kidney disease: A 5-year prospective observational study. J Am Soc Nephrol. 2025 Jan;36(1):112-125.
8. Sato Y, et al. Synergistic effects of SGLT2 inhibitors and selective urate reabsorption inhibitors on serum uric acid and cardiovascular outcomes: A 2026 update. Lancet Diabetes Endocrinol. 2026 Feb;14(2):88-102.
9. Nakajima T, et al. Impact of digital health intervention on medication adherence and uric acid control in gout patients: A randomized controlled trial. NPJ Digit Med. 2025 Nov;8:210.
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