くすりを知るシリーズ⑪

薬剤師 NK

痛み止めの進化!
アスピリン・COX阻害剤・アセトアミノフェンのヒミツ

 

「痛み止め」の作用メカニズムを理解しよう

 

「痛み止め」と聞くと、アスピリン、ロキソプロフェン、アセトアミノフェンなどを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、これらの薬は「痛みを抑えるメカニズム」が異なることをご存じでしょうか?痛み止めの研究は日々進化しています。
今回は「薬の構造からその作用を知る」ことをテーマに、アスピリン・ロキソプロフェン・COX-2阻害剤・アセトアミノフェンの違いを、開発の歴史・構造と作用・阻害するプロスタグランジンの違いという観点からお話しします。



 

痛みと炎症の原因—プロスタグランジンとは?

 

痛みや発熱の原因の一つにプロスタグランジン(PG)という物質があります。PGは必須脂肪酸のアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素によって作られ、炎症や発熱、胃粘膜の保護、血小板の働きなどに関与しています。COXには以下の3種類があります。

 
COXの種類 主な働き 産生するプロスタグランジン(PG)
COX-1
常時発現
胃粘膜の保護、血小板の凝集 PGE₂(胃粘膜保護)
TXA₂(血小板凝集促進)
COX-2
誘導性
炎症や発熱、痛みの発生 PGE₂(痛み・発熱)
PGI₂(血管拡張・抗血小板作用)
COX-3
(仮説)
中枢神経系の発熱・痛み調整 PGE₂(発熱)




 

アスピリンの登場—最初のCOX阻害剤

 

【開発の歴史】

アスピリンの起源は、柳の樹皮に含まれるサリシンという成分です。日本に仏教とともに伝来した爪楊枝は歯間を清掃するために使われていますが、歯痛を和らげる効果もあるとされてきました。これは楊(柳)に含まれているサリシン(サリチル酸+糖+アルコール)が唾液に溶け出すためと考えられています。
1860年にサリチル酸が合成されましたが、内服後しばしば吐き気や胃痛が生じるため、服薬を中断せざるを得ないものでした。その後も改良が重ねられ、1898年、胃腸障害の少ないアセチルサリチル酸(アスピリン)が開発され、世界中で解熱・鎮痛薬として用いられるようになりました。
その後、少量のアスピリンが抗血小板作用を発揮することが判明し、心筋梗塞や脳梗塞の予防薬としても使用されています。発売後100年以上が経過し、いまだに広く使われている代表的な鎮痛薬で、頭痛や発熱、関節の痛みにも広く使われています。
最新の研究では、特定の遺伝子変異を持つ大腸がん患者が、治療後にアスピリンを服用することで、がん再発リスクを低下させる可能性も示唆されています7)

 

【構造と作用】

1971年、John Vane教授らが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がCOXを阻害することで抗炎症作用を示すことを発見しました1)。アスピリンは小さな分子で、COX-1(常時発現)とCOX-2(誘導性)の両方を不可逆的に阻害します。特に血小板COX-1をアセチル化してTXA₂産生を抑制し、抗血小板作用(血液をサラサラにする効果)を発揮します。

 

【阻害するPG】

COX-1阻害 → PGE₂(胃保護)、TXA₂(血小板凝集)低下 → 胃が荒れる、血液がサラサラになる
COX-2阻害→ PGE₂(炎症・発熱)、PGI₂(血管拡張)低下 → 炎症・痛みが和らぐが、血栓リスク増加

 

【まとめ】

◆痛み止め・解熱作用があるが、胃腸障害が起こりやすい
◆抗血小板作用があり、心筋梗塞・脳梗塞の予防に使われる




 

COX-2阻害剤の登場—副作用を減らすための改良

 

【開発の歴史】

1991年にSimmonsらとHerschmanらの研究グループが独立してCOX-2を同定し、その誘導性と炎症時の役割、すなわち「炎症時にだけCOX-2が活性化する」ことを報告しました2)。「COX-2のみを選択的に阻害すれば、胃腸障害を減らしながら痛みを抑えられるのでは?」との発想からCOX-2阻害剤(セレコキシブなど)が開発されました。

 

【構造と作用】

COX-2阻害剤(セレコキシブなど)は、アスピリンやロキソプロフェンとは異なる「大きな立体構造」を持ち、COX-2の「鍵穴」にピッタリはまるように(「鍵」として)設計されています。COX-1にはあまり影響しません。COX-1をほとんど阻害しないため、胃の粘膜を守りながら炎症を抑えることが可能です3)



 

【阻害するプロスタグランジン】

COX-2阻害 → PGE₂(炎症・発熱)、PGI₂(血管拡張)低下 → 炎症・痛みを抑えるが、血栓リスク増加
COX-1を阻害しない → 胃の粘膜保護作用が維持される

 

【まとめ】

◆胃腸障害が少なく、安全性が高い
◆血栓リスクがあるため、長期使用には要注意



 

ロキソプロフェンの開発

 

1986年に日本で発売されたロキソプロフェンは、非選択的COX阻害薬(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)の一種で、アスピリンと同じくCOX-1およびCOX-2の両方を阻害します。したがって、作用機序としてはアスピリンに近いですが、以下の点で異なります。
・COX-1、COX-2を両方阻害し、抗炎症・鎮痛・解熱作用を持つ。
・体内で活性型に変換されるプロドラッグのため、NSAIDsの中では胃腸障害のリスクが低め。
・COX-1の可逆的阻害のため、血小板への影響は限定的。そのため、心筋梗塞・脳梗塞予防には使われません。



 

アセトアミノフェン—COX-3阻害?

 

【開発の歴史】

アセトアミノフェンは19世紀に発見され、1950年代から広く使用されています。NSAIDsとは異なり、抗炎症作用がほとんどないのが特徴です。

 

【構造と作用】

アセトアミノフェンは、COX-1やCOX-2をほとんど阻害しません。一つの仮説として、COX-3(中枢性の変異型COX)が関与していると考えられています。中枢神経でPGE₂の産生を抑え、発熱や痛みを和らげるとされています4)。その後の研究でCOX-3の存在やその役割については議論があり、仮説にとどまっています。
新たな説明として、アセトアミノフェンがCOX酵素の酸化された部分を還元し、活性を抑える結果、PGの生成が抑えられ、鎮痛・解熱作用を示すとされています。この仕組みにより、アセトアミノフェンは炎症部位ではあまり効果を発揮せず、脳(中枢神経系)のような低酸化環境でよく働くと考えられます。これが「アセトアミノフェンには抗炎症作用がほとんどない」と言われる理由の一つです5)。また、①他のNSAIDsと比較して、構造がシンプルで小さい、②血液脳関門を通過しやすい、③炎症が強くない状態(低酸化環境)ではよく効くが、炎症が激しい環境(高酸化状態)では効きにくい特徴があります。このようなことから、アセトアミノフェンの作用機序については未知な点が多く、今も研究されています。

 

【阻害するPG】

COX-3(仮説)阻害 → PGE₂(発熱・痛み)低下 → 熱が下がり、痛みが軽減

 

【まとめ】

◆解熱・鎮痛作用はあるが、抗炎症作用はほぼない
◆胃腸障害が少なく、小児や高齢者にも使いやすい



 

総まとめ6)

 
薬の種類 構造の特徴 COXへの
結合
炎症への作用 胃への影響 中枢作用
アスピリン 小さい、アセチル基あり COX-1/2阻害
不可逆・非選択的
強い
強い抗血小板作用
胃を荒らしやすい あり
ロキソプロフェン プロドラッグ、活性体で作用 COX-1/2阻害
可逆的・非選択的
強い 比較的やさしい あり
COX-2阻害剤 大きな立体構造 COX-2選択的
結合
強い 胃にやさしい なし
アセトアミノフェン シンプル、小さい COX-3(仮説)
COXに直接結合しにくい
ほぼなし(低酸化環境でのみ作用) 胃にやさしい あり(主に脳で作用)
 

痛み止めにもいろいろな種類があります。目的や体質に合わせて、最適な薬を選びましょう!
お薬の世界は奥が深いですが、ちょっと知るだけで「なるほど!」と面白く感じられるものです。次に痛み止めを選ぶときは、ぜひ「この薬はどんなカタチをしているのかな?」と思いを巡らせてみてくださいね!






 

#2024年10月、厚生労働省は アスピリンを除く非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の添付文書に、心筋梗塞や脳血管障害などの心血管系イベントのリスク増加に関する注意喚起を追記するよう指示しました。

 

【参考資料】
1)Vane, J. R. Inhibition of prostaglandin synthesis as a mechanism of action for aspirin-like drugs. Nature. 1971, 231(25), 232-235.
2)Simmons, D. L., Botting, R. M., & Herschman, H. R. Cyclooxygenase isozymes: The biology of prostaglandin synthesis and inhibition. Pharmacological Reviews. 2004, 56(3), 387-437.
3)FitzGerald, G. A., & Patrono, C. The coxibs, selective inhibitors of cyclooxygenase-2. New England Journal of Medicine. 2001, 345(6), 433-442.
4)Botting, R. M. Mechanism of action of acetaminophen: Is there a cyclooxygenase 3 ? Clinical Infectious Diseases. 2000, 31(Supplement_5), S202-S210.
5)Hinz, B., & Brune, K. Paracetamol and cyclooxygenase inhibition: Is there a COX-3 ? Clinical Pharmacology & Therapeutics. 2012, 91(2), 204-212.
6)Rainsford, K. D. Ibuprofen: pharmacology, efficacy, and safety. Inflammopharmacology. 2009, 17(6), 275-342.
7)Rothwell, P. et al. Effect of daily aspirin on long-term risk of death due to cancer: analysis of individual patient data from randomized trials. The Lancet. 2011, 377(9759), 31-41.