くすりを知るシリーズ⑦

薬剤師 NK

血液をサラサラにする薬:守るために

年齢を重ねると、血液循環や血流にさまざまな変化が現れ、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まります。このため、血液をサラサラにする薬が注目されています。今回は、血液の流れを良くし、健康を支える薬の働きやその重要性についてお話しします。



 

血液がドロドロになる原因とは?


血液がドロドロになる主な原因のひとつは、赤血球が硬くなり、細い血管を通りにくくなることです。その結果、血液の流れが悪くなり、酸素や栄養が十分に行き渡らなくなります。また、年齢とともに血小板が過剰に凝集しやすくなり、血栓(血のかたまり)ができやすくなります。赤血球や血小板の状態、血中の水分量が影響し、血管が詰まりやすくなり、心臓や脳などの重要な臓器に深刻なダメージを与えるリスクが高まります。



 

血液をサラサラにする薬とは?


 

1.狭義の血液サラサラ薬
医学的には、血液をサラサラにする薬は主に「抗血小板薬」と「抗凝固薬」のことを指します。
 ●抗血小板薬:血小板の凝集を抑え、血栓ができにくくなります。
 ●抗凝固薬:血液が固まりにくくなるよう働きかけます。

 

2.広義の血液サラサラ薬
一般的には、血流を改善し、健康を維持するための薬やサプリメントも血液サラサラ薬として認識されています。例えば、コレステロールを下げる薬(リノール酸やスタチン)や栄養補助食品などが含まれることがあります。

 

3.医学的定義と一般的な認識の違い
 ●医学的定義:医療従事者は血液サラサラの薬を主に抗血小板薬や抗凝固薬として捉え、効果や使用目的に基づいて処方しています。
 ●一般的な認識:一般の方はマスメディアなどを通じて血液サラサラという言葉を広く解釈し、健康に良いとされる食品やサプリメントも含まれると考えがちです。正しい情報を知り、自分に適した製品を選ぶことが大切です。



 

血液をサラサラにする薬の代表例

➀抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)
アスピリンは1970年代にその抗血小板効果が発見され、心筋梗塞や脳梗塞の予防に広く使われています。血小板の凝集を防ぐことで血栓の形成を抑え、特に心血管疾患のリスクが高い高齢者に有効です。クロピドグレルは1990年代に開発され、血小板の活性化を抑制することで血栓の形成を防ぎます。主に心筋梗塞や脳梗塞の予防に使用されます。

 

②抗凝固薬(ワルファリン、DOACs)
ワルファリンは1940年代に開発され、凝固因子に作用して血液が固まりにくくする効果があり、心房細動や深部静脈血栓症の治療に使用されます。近年では、直接経口抗凝固薬(DOACs)として知られるダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンなどが登場しました。これらの薬は、ワルファリンに比べて食事や他の薬との相互作用が少なく、出血リスクが低く血液検査が不要であるため、使いやすさから高齢者に選ばれることが増えています。

 

③赤血球変形能改善薬(ペントキシフィリン、ジラゼプ塩酸塩水和物)
ペントキシフィリンは血液の流動性に着目して世界で最初に開発された薬です。赤血球の変形能を改善し、血液粘度を低下させる作用があることが1970年代に報告され、微小循環改善薬として1998年まで使用されました。ジラゼプ塩酸塩水和物は持続的な冠血流増加作用を示すものとして見出された物質ですが、抗血小板作用、赤血球変形能・血液流動性の改善作用等が薬の特性として示され、狭心症、その他の虚血性心疾患(心筋梗塞を除く)や腎疾患の方に使用されています。



 

高齢者が薬を服用する際の注意点

 

高齢者は、若年層に比べて血栓リスクが高いため、血液をサラサラにする薬を服用する機会が増えますが、いくつかの重要な注意点があります。



 

1. 出血のリスク

 

血液をサラサラにする薬の最大のリスクは「出血」です。薬の作用で血が固まりにくくなるため、出血が起こると止まりにくくなります。たとえば、歯茎の出血や皮膚の小さな切り傷であっても、通常より長く出血が続くことがあります。高齢者は特に転倒や打撲が多いため、注意が必要です。
内出血も同様に重大な問題です。頭を打った際に脳内出血が起こるリスクが高まり、これが生命に関わる事態を招くことがあります。したがって、血液をサラサラにする薬を服用している場合は、転倒や怪我を防ぐために、住環境を整えることが大切です。

 

2. 薬の相互作用

 

高齢者は複数の疾患を抱えていることが多いため、同時に複数の薬を服用しているケースがよくあります。血液をサラサラにする薬は、他の薬と相互作用を引き起こす可能性があります。例えば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や一部の抗うつ薬と併用することで、出血リスクがさらに高まることがあります。また、ワルファリンを服用している場合、ビタミンKを多く含む食品(納豆、ブロッコリーなど)が薬の効果に影響を与えることがあるため、食事にも注意が必要です。

 

3. 定期的な血液検査の重要性

 

抗凝固薬を服用している場合、特にワルファリンのような薬では、定期的な血液検査が必要です。INR(国際標準化比)という数値で、血液の凝固状態を測定し、薬の効果が適切かどうかを確認します。数値が高すぎると出血リスクが高まり、低すぎると血栓ができやすくなるため、適切なバランスを保つことが大切です。

 

4. 薬の服用を自己判断で中断しない

 

高齢者は、体調の変化や薬の副作用を感じると、自分の判断で薬の服用を中断してしまうことがありますが、これは非常に危険です。血液をサラサラにする薬は、一度服用を中断すると、すぐに血栓ができるリスクが高まる場合があります。特に抗凝固薬を使用している場合、急に中断すると血栓が形成されやすくなり、命に関わる事態を招くことがあります。したがって、副作用や不調を感じた場合は、自己判断で中断せず、必ず主治医や薬剤師に相談することが重要です。



 

血液をサラサラにするためにできること

 

薬の効果に加え、生活習慣も見直すとさらに血液の健康が守られます。
バランスの取れた食事:脂肪酸のバランスを意識し、魚などオメガ3脂肪酸を含む食材を積極的に摂りましょう。
適度な運動:軽い有酸素運動が血流を促進します。
十分な水分補給:血液の半分以上は「血漿けっしょう」という液体でできており、血漿けっしょうの91%は水分なんです。水分摂取量が足りないと、体内の水分量が減少し、血液中の水分も減少するので「ドロドロ血液」になります。こまめな水分摂取で「サラサラ血液」にして、身体を元気に保ちましょう。



 

まとめ

 

血液をサラサラに保つことは、高齢者にとって健康を守るためにとても重要です。抗血小板薬や抗凝固薬、赤血球変形能改善薬などの薬を適切に使うことで、血流を改善し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げることができます。薬とあわせて、日々の食事や生活習慣を見直し、健康を保ちましょう。
医師や薬剤師と相談し、自分に合った治療や予防法を見つけて、いつまでも元気な生活を続けていきましょう。





 

【参考文献】
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6)医薬品インタビューフォーム コメリアンコーワ錠50/コメリアンコーワ錠100