ポリファーマシー

薬剤師 Kira

 

”ポリファーマシー”という言葉を聞かれた方もおられると思いますが、どういう意味かはご存知でしょうか。
”ポリファーマシー”は「Poly(多くの)」と「Pharmacy(調剤)(薬)」からなる造語です。単に服用する薬の数が多いことだけではなく、それによって有害な事象が起きている、あるいは起きやすい状態を”ポリファーマシー”といいます。多剤服用による薬の飲み間違いや、薬が余ってしまう残薬の発生なども”ポリファーマシー”に含まれます。

何種類以上の薬を併用していると”ポリファーマシー”になるかという明確な定義はありませんが、厚生労働省は、平成29年4月に「高齢者医薬品適正使用検討会」を設置して安全性確保に必要な事項の調査・検討を実施し、「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論篇」として、取りまとめられています。
内容は『1.ポリファーマシーの概念』『2.多剤服用の現状』から始まり『8.国民的理解の醸成』となっています。今回は「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論篇」を少し紹介します。

 

ポリファーマシーの概念

「多剤服用の中でも害をなすものを特にポリファーマシーと呼び、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である。」 とされています。すなわち、多剤服用による服薬の間違い(服薬過誤)や、正しい服薬が出来なくなる(服薬アドヒアランス低下)といった有害事象以外も含まれています。「薬物有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加し、6種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータもある(図1)」としてデータも紹介されています。




 

多剤服用の現状

『2.多剤服用の現状』では、同一の保険薬局で調剤された薬剤種類数が紹介されています。

年齢が上がるごとに薬剤の種類が増え、75歳以上では24.8%もの方が7種類以上のお薬が処方されていることがわかります。

「なぜ多剤服用で有害事象が増えるのか」を薬剤師として考えてみます。
富山常備薬でも、多くのお客様から飲み合わせのお問い合わせをいただいており、薬剤師が富山常備薬の薬と処方薬などの服用中の薬との飲み合わせをお答えしております。薬の飲み合わせは薬と薬の添付文書の併用禁忌・併用注意から判断します。薬と薬を一緒に飲んではいけない場合は併用禁忌として記載されていますので、一緒に飲んではいけないと判断できます。 併用注意は、一緒に飲むと薬の効果が強く出る、もしくは薬の効果が減るなどの場合で、服薬時間を変更するか、一緒に飲まない方が良いかを判断します。この薬の飲み合わせは、あくまでも 薬 対 薬 の1種類ずつでしか判断できません。
例えば薬A・薬B・薬Cの3つの薬の飲み合わせで考えてみます。
●薬Aと薬B=問題なし。
●薬Aと薬C=問題なし。
●薬Bと薬C=問題なし。
では薬A・薬B・薬Cを一度に服用しても問題ないのでしょうか。実は、この3種類の薬を同時に服用しても大丈夫かはわからないのが現状です。3種類の薬でもわからない訳ですから、4つ、5つ、6つと薬が増えると何が起きるかは誰にもわからないのです。
現在分かっているのは、先ほども紹介した「6種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータもある」ということと「年齢が上がると処方される薬の種類が増える」ということです。

薬の代謝(分解)は主に肝臓で、排泄は主に尿として排出されます。しかし人は年齢を重ねることで生理機能は低下していきます。これにより薬が体の中に残っているうちに次の日のお薬を服用すると薬の血中濃度が高くなり、有害事象が出る可能性も高まります。こういった”ポリファーマシー”の問題解決に向け、厚生労働省でも「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」(令和3年3月31日付け医政安発0331第1号・薬生安発0331第1号)として、通知を発出しています。

 

ポリファーマシー対策

では、私たち薬を飲む側の立場におけるポリファーマシー対策として何ができるのでしょうか。
1番目は、ご自身の体調の変化に気づくことです。薬が追加された場合や、変更された場合は特に注意が必要です。「眠気」「食欲低下」「ふらつき」「めまい」「便秘」などの症状に気づいてください。体調の変化に気づいたら、勝手に薬に服用を止めずに、医師や薬剤師に相談してください。

2番目は、かかりつけ薬局を決めることです。人によっては複数の医療機関を受診されていることと思います。その時に処方される薬はどこで貰っているでしょうか。それぞれの医療機関の門前薬局で貰うのは便利ですが、おすすめできません。医療機関が複数あり、調剤薬局も複数ありだと、薬の飲み合わせや同種類の薬の重複など、患者さん自身ができないといけないのです。
ですから、多少不便でもかかりつけ薬局を決め、そこですべての医療機関のお薬を貰うようにしてください。こうすることによって、薬局は薬歴管理を一元管理でき処方に問題ある場合は処方医師に疑義紹介をしてくれます。疑義紹介とは、薬の飲み合わせが悪い場合や同種類の薬剤が重複している場合など処方の変更などをすることです。

年を重ねるごとに薬が増えるのは仕方ないとしても、ポリファーマシー対策は国や病院・医療関係者だけに任せるのではなく、ご自身の体を守る対策の一環として、かかりつけ薬局の活用を検討されてはいかがでしょうか。




(参考)