売薬さんと「先用後利」
薬剤師 なお
皆さんのお家には、「売薬さん」は来ていらっしゃいますか?
「そもそも売薬さんって何?聞いたことがないよ」という方もいらっしゃるかもしれません。
「売薬さん」、法律の言葉でいうと「医薬品の配置販売業に従事する人」(お客さんのお宅を訪問し、お薬を販売する人)のことを親しみを込めて「売薬さん」と呼んでいるのではないかと思います。富山から来ている「売薬さん」を「富山の薬屋さん」などと呼ぶお客さんもいらっしゃると聞いています。
医薬品の販売
そもそも、医薬品をお客様に販売(小売)できるのは、①薬局、②ドラッグストアなどの店舗販売業と呼ばれる薬店、③「売薬さん」などと呼ばれる配置販売業の3種類の業態しかありません。
富山常備薬は、医薬品の通信販売を行っていますが、③の配置販売業ではなく、②の店舗販売業の許可を受けて医薬品をお客様にお届けしています。
富山に、小さな店構えですが、お客様に来ていただけるお店があり、お店と同一建物内にはお客様にお送りする医薬品を貯蔵する大きな倉庫とその医薬品を梱包する広い作業室等があります。富山常備薬は、そんなドラッグストアなどの薬店の一形態なのです。
さて、「売薬さん」(③の配置販売業)ですが、お薬の販売は店舗ではなく、お客さんのお家で行われます。法律の言葉でいうと「配置による販売方法」で医薬品が販売されます。その「配置による販売方法」のことを「先用後利」と呼ぶことがあります。
配置による販売方法
「配置による販売方法」は、具体的に次のように行われます。
① 訪問
② 常備薬の使用
お客さんは、必要な時に預かった常備されたお薬を使用します。③ 定期的な訪問
「売薬さん」は、定期的にお客さんのお家を訪問し、使用されたお薬とその数を調べます。④ 常備薬の補充
「売薬さん」は、使用された分のお薬の代金をお客さんからいただき、消費されたお薬を補充します。このように、「配置による販売方法」は、「先にお客さんにお薬を使用していただき、後でお客さんから代金をいただき利を得る。」ということで、「先用後利」と呼ばれるようになりました。
先用後利
「先用後利」は、お客様が、身体の都合が悪くなった時に、すぐに家に常備されているお薬を使うことができ、しかも使用しなかったお薬の代金は払わなくてもよい、といったお客様の側に立ったお薬の販売方法です。
この「先用後利」は、「お客さんは売薬さんを信用し、売薬さんはお客さんを信用する」といった両者の信頼関係がなければ、成り立たない商売の方法です。
売薬さんたちからは、昼食をごちそうになったとか、お客さんのご家族の縁談をお世話した等々の話をよく聞きました。そんな信頼関係が、「くすりの富山」の始まりと言われる元禄時代から300年以上も続いている所以なのかなと想像します。
全国で、「売薬さん」で有名なのは、富山を筆頭に、奈良、滋賀、佐賀があります。「売薬さん」は、富山県の調べでは、令和4年末時点で、全国に1万人余りいらっしゃいますが、以前のように富山などから全国各地へ行く(出張型)というのではなく、富山などから商売先に居住地を移すなど、その居住地に住む(現地居住型)「売薬さん」が多くなりました。現在は、ドラッグストアなどの増加により、「売薬さん」の数は減少傾向にあるようです。
おわりに
富山常備薬は通信販売を行っているので、「売薬さん」ではないのですが、先人のお客様ファーストの“こころ”を引き継ぎ、お客さまから何でも相談していただける「かかりつけの薬屋さん」となれるよう努めてまいりたいと思っています。
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