軒先に揺れた笹飾り
――懐かしい七夕の思い出と、短冊の五色に込められた願い

7月が近づくと、ふと昔の七夕を思い出す――。
そんな方も多いのではないでしょうか。

子どもの頃、近所の竹林から笹をもらってきて、家族みんなで飾り付けをした夏の日。折り紙を輪つなぎにしたり、色紙で吹き流しを作ったり。願い事を書いた短冊が風に揺れる光景は、今でもどこか懐かしく心に残っています。

縁側から見上げた夜空。
蚊取り線香の香り。
うちわで風を送りながら食べたスイカ。
遠くから聞こえる風鈴の音。

七夕には、日本の夏の原風景のような思い出が詰まっているのかもしれません。

最近では大きな七夕祭りや商業施設の飾りを目にする機会はあっても、自宅で笹を飾ることは少なくなりました。それでも、短冊に願いを書くという風習は、今も変わらず受け継がれています。

今回は、そんな七夕の由来や、短冊の“五色”に込められた意味について、懐かしい夏の情景とともにご紹介します。


目次

「たなばたさま」を歌った子どもの頃

「ささのは さらさら
のきばにゆれる――」

七夕が近づくと、学校や幼稚園で歌った童謡「たなばたさま」を思い出す方も多いでしょう。
教室の隅には大きな笹が立てられ、友達と一緒に飾りを作った記憶。願い事を書く時間は、なんだか少し特別でした。

「字が上手になりますように」
「野球がうまくなりますように」
「家族が元気でいますように」

今思えば、小さな短冊には、その時々の素直な気持ちが込められていたのですね。
昔は、各家庭の軒先に笹飾りが揺れている風景も珍しくありませんでした。夕暮れ時、風にさらさらと揺れる笹の音を聞くと、「夏が来たなあ」と感じたものです。

 

織姫と彦星――一年に一度だけ会える夜

七夕といえば、織姫と彦星の物語が有名です。

機織り上手な織姫と、働き者の彦星。二人は結婚して幸せに暮らしますが、仲が良すぎるあまり仕事を怠けるようになってしまいます。
それを見た天帝は怒り、二人を天の川の両岸へ引き離しました。
悲しみに暮れる二人をかわいそうに思った天帝は、「一年に一度、7月7日の夜だけ会うことを許そう」と約束します。

子どもの頃、この話を聞きながら夜空を見上げ、「今日は会えているのかな」と想像した方もいるかもしれません。
今のように明るい街灯が少なかった時代、夏の夜空には天の川がもっと身近に見えていました。家の前や庭先から星空を見上げる時間は、暮らしの中に自然と溶け込んでいたのでしょう。

七夕は“願いごとの日”だった

七夕は、もともと中国から伝わった行事ですが、日本古来の「棚機(たなばた)」という風習と結びつき、現在の形になったと言われています。
昔の日本では、乙女が神様に捧げる布を織り、豊作や無病息災を祈る行事がありました。そこに織姫と彦星の伝説が重なり、「願いを星に託す日」として広まっていったのです。

また、昔の七夕は、裁縫や書道など“習い事の上達”を願う日でもありました。
「もっと字が上手になりますように」
「仕事をしっかり覚えられますように」
そんな願いを書いた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 

なぜ笹に短冊を飾るの?

七夕では、願い事を書いた短冊を笹竹に吊るします。
笹は生命力が強く、冬でも青々としていることから、昔から神聖な植物とされてきました。

また、風に揺れる笹の葉の音は「神様に願いを届ける」とも言われています。
子どもの頃、家族で飾り付けをしながら、「高いところに付けると願いが叶うよ」なんて言われた記憶がある方もいるかもしれませんね。
願いを書いた短冊が夜風に揺れる様子は、どこか幻想的で、日本の夏らしい美しい風景でした。
 

実は意味がある「短冊の五色」

七夕の短冊には、赤・青(緑)・黄・白・黒(紫)の五色があります。
実はこれらの色には、それぞれ意味が込められていることをご存じでしょうか。
これは中国の「陰陽五行説」という考え方に由来しており、人として大切にしたい五つの心を表していると言われています。

青(緑)――思いやりの心
青は「木」を表し、人を思いやる気持ちや成長を意味します。
「家族みんなが仲良く過ごせますように」
「子どもや孫が元気に育ちますように」
そんな願いを書くのにぴったりの色です。
年齢を重ねるほど、“健康でいてくれること”のありがたさを感じますよね。

赤――感謝の心
赤は「火」を表し、感謝や礼儀を意味します。
若い頃は照れくさくて言えなかった「ありがとう」も、年齢を重ねると自然に大切さがわかってくるものです。
「家族に感謝」
「支えてくれる人に感謝」
そんな気持ちを短冊に込めるのも、素敵な七夕の過ごし方かもしれません。

黄――人とのつながり
黄は「土」を表し、人との信頼や絆を意味します。
昔は近所づきあいも多く、七夕の飾りを見せ合ったり、子どもたちが一緒に遊んだりする光景もありました。
人とのつながりが変化した今だからこそ、「ご縁」や「絆」の大切さを改めて感じる色ですね。

白――努力を忘れない心
白は「金」を表し、規律や努力を意味します。
「これからも元気に過ごしたい」
「毎日を丁寧に暮らしたい」
そんな前向きな願いを書くのにふさわしい色です。
いくつになっても、“頑張りたい気持ち”は人生を明るくしてくれるものですね。

黒(紫)――学びの心
黒は「水」を表し、知識や学びを意味します。
最近では、黒の代わりに紫が使われることも増えています。
趣味を始めたり、本を読んだり、新しいことを学んだり。年齢を重ねてからの学びには、若い頃とは違う楽しさがあります。
「これからも好奇心を忘れずにいたい」
そんな願いにもぴったりの色です。
 

大人になった今だからこそ、願いを書いてみる

子どもの頃の願い事は、夢や憧れが中心だったかもしれません。

けれど今は、
「健康で穏やかに暮らしたい」
「家族みんなが元気でいてほしい」
「変わらない日常が続いてほしい」

そんな“当たり前の幸せ”を願うことが増えたのではないでしょうか。
年齢を重ねた今だからこそ、七夕の願い事には深みが生まれるのかもしれません。

夜空を見上げながら、夏を感じるひとときを

最近は忙しさの中で、ゆっくり夜空を見上げる機会も少なくなりました。
けれど七夕は、ほんの少し立ち止まって、季節や家族、自分の願いを見つめ直すきっかけを与えてくれます。

今年の七夕は、懐かしい思い出を振り返りながら、短冊に願いを書いてみませんか。
笹の葉が風に揺れる音を聞きながら空を見上げれば、子どもの頃の夏の記憶が、そっとよみがえるかもしれません。

※写真・イラストはすべてイメージ


参照元

  • 国立天文台「七夕のおはなし」
  • 国立国会図書館「七夕行事の由来」
  • 一般社団法人日本記念日協会「七夕について」
  • 全国こども会連合会「七夕飾りの意味」
  • 農林水産省広報誌「七夕と日本の年中行事」