くすりを知るシリーズ⑩

薬剤師 NK

「筋肉に作用する薬」— 高齢者と若い女性のための最新トレンド!

 

「皆さんはサルコペニア(加齢性筋肉減少症)やフレイル(加齢による虚弱)という言葉をご存じでしょうか?」
どちらも筋肉量の減少や筋力低下に関連する概念です。高齢者にとって筋力低下は日常生活や生活の質(QOL)に大きく影響しますが、近年は「筋肉がカワイイ!」という意識が若い女性の間でも広まり、“筋活”や“筋トレ”ブームが到来しています。
そこで今回は、「筋肉に作用する」「筋力を高める」「筋肉を再生する」の3つの視点から、サルコペニアやフレイルの予防に役立つ薬、さらには“筋活”や“筋トレ”に貢献する医薬品や医薬部外品について、世代を問わず役立つ情報をお届けします!





 

最新研究が示す「筋肉と老化」の関係

 

① 筋トレと老化の関係

米国ブリガム・ヤング大学の研究(『Biology』掲載)では、筋トレを継続する人は 生物学的老化の指標(テロメアの長さ)が有意に長いことが示されました。特に週90分の筋トレを行っている人は、生物学的(細胞)年齢が約4年若いという驚きの結果が得られています。これは、筋トレが老化を遅らせる可能性を示唆する重要な発見です。

 

② 老化が加速する年齢

スタンフォード大学の研究(『Nature Aging』掲載)によると、人体の老化は特定の年齢で急激に進行することが明らかになりました。特に44歳と60歳のタイミングで、筋肉や皮膚、代謝機能に大きな変化が観察されています。この研究では、40代ではアルコール代謝能力の低下、60代では炭水化物やカフェインの代謝低下が指摘されています。研究チームは「40代・60代での生活習慣の見直しが重要」と強調しており、筋肉量の減少を防ぐためにも適切な介入が推奨されています。



 

筋肉の減少や筋力低下のメカニズム

 

フレイル対策を考えるために、筋肉の減少(サルコペニア)や筋力低下のメカニズムを理解しておきましょう。

1. 加齢に伴う筋肉の変化

筋線維の減少:特に速筋線維(Type II)が減少し、筋力低下につながります
筋タンパク質の合成低下:加齢によりタンパク質の合成が低下し、筋肉が作られにくくなります
筋衛星細胞(筋幹細胞)の減少:筋肉の修復・再生能力が低下します

 

2. ホルモンの影響

成長ホルモンやテストステロンの減少:筋タンパク質の合成を促すホルモンが減少します
インスリン抵抗性の増加:筋肉の合成に関与する インスリンの作用が低下します

 

3. 神経系の変化

運動ニューロンの減少:神経と筋肉の接続が減少し、運動能力が低下します
協調性の低下:神経伝達が遅くなり、バランスや反射能力が低下します

 

4. 生活習慣の影響

低活動(運動不足):筋肉を長期間使わないと廃用性萎縮(生活不活発病)が起こります
栄養不足:タンパク質やビタミンD不足が筋肉の維持を妨げます

 

5. 炎症と慢性疾患

慢性炎症(加齢性炎症, inflammaging):持続的な炎症が筋タンパク質の分解を促進します
慢性疾患(糖尿病、心血管疾患など):疾患が筋肉のエネルギー代謝に悪影響を及ぼします

 

6. ミトコンドリア機能の低下

エネルギー産生の低下:細胞内のエネルギー生成器官(ミトコンドリア)の機能低下により、筋肉の持久力が低下します

 

これらのメカニズムを踏まえて、フレイル予防には「適度な運動」、「バランスの良い食事」、「社会的活動」が重要 になります。加えて、医薬品・医薬部外品による対策も効果的 です。






 

医薬品や医薬部外品によるフレイル対策

 

1. 医薬品によるフレイル対策

(1) 筋肉量・筋力の維持をサポートする薬
✅ ビタミンD製剤
・カルシトリオール
・アルファカルシドール
・エルデカルシトール
 o カルシウムの吸収を促進し、骨と筋肉の健康を維持
 o ビタミンD不足はサルコペニアのリスクを高めるため、高齢者では補充が推奨される
筋肉の健康維持に重要(サルコペニアのリスク低減)

✅ テストステロン補充療法(男性向け)
・テストステロンエナント酸エステル
・テストステロンデカノエート
 o 加齢による男性ホルモン低下に対して使用されることがある
 o 筋力低下や疲労感の改善が期待できるが、副作用(前立腺肥大・心血管リスク)に注意が必要
筋力低下や疲労感の改善に期待。(ただし副作用に注意)

✅ アミノ酸製剤(BCAA含有製剤)
BCAA(ロイシン、イソロイシン、バリン)は筋肉のエネルギー供給や筋タンパク質の同化反応(筋タンパク質合成の増加と筋タンパク質分解の減少)の促進に役立ちます。
・リーバクト配合顆粒
 用途:慢性肝疾患の低栄養改善
 作用:筋肉でのアンモニア代謝を促進し、筋力維持をサポート
・ヘパンED配合内用剤
 用途:肝疾患患者の低栄養対策
 成分:BCAA+ビタミンB群
・アミノレバンEN配合散
 用途:肝硬変患者の低栄養改善
 作用:BCAA補給による筋肉維持

✅ 貧血治療薬(鉄剤、ビタミンB₁₂、葉酸)
貧血があると筋力や持久力が低下するため、適切な補充が必要
・クエン酸第一鉄ナトリウム
・シアノコバラミン(ビタミンB₁₂)
・葉酸

✅ コエンザイムQ10(CoQ10)配合製品
ミトコンドリアのエネルギー産生をサポート
一般的な健康維持のためには処方されない
・ユビデカレノン

 

2. 医薬部外品によるフレイル対策

✅ ビタミンB群(B₁、B₂、B₆、B₁₂)配合製品
o 体力維持・疲労回復を助ける

✅ カルニチン配合製品
o 脂肪をエネルギーに変える働きを助ける
o 筋肉の疲労回復、エネルギー代謝をサポート

✅ ロイシン、BCAA配合製剤
o 筋肉の合成を促進するアミノ酸を含み、手軽に摂取可能

 

3. フレイル対策に医薬品・医薬部外品を活用する際のポイント

<ポイント1>医師・薬剤師に相談する
o 持病や他の薬との相互作用に注意

<ポイント2>運動・栄養と組み合わせる
o 医薬品や医薬部外品だけでなく、適度な運動と栄養バランスの良い食事が不可欠

<ポイント3>長期的に継続する
o フレイル対策は短期間ではなく、継続的な取り組みが必要


これらの薬剤は、症状や個人の体質に応じて選択されます。使用する際は、必ず医師や薬剤師に相談し、適切な指導のもとで服用してください。



 

まとめ




 

1. 医薬品:ビタミンD、BCAA、テストステロン補充療法などを適切に活用
2. 医薬部外品:ビタミンB群、BCAA、カルニチン配合製品などを併用
3. 運動・栄養管理の重要性:医薬品だけでなく、適度な運動とバランスの取れた食生活が鍵

フレイル予防には「運動 × 栄養 × 医薬品・医薬部外品」のバランスが重要です!

なお、紹介した医薬品は、日本国内で承認・販売されており、フレイル対策の一環として活用されています。ただし、使用前には医師や薬剤師に相談し、適切な指導のもとでご利用ください。





 

【参考資料】
1)Larry A. Tucker L.A. et ai.
“Telomere Length and Biological Aging: The Role of Strength Training in 4814 US Men and Women.” Biology. 2024, 13(11), 883- 894.
2)Shen X et al. “Nonlinear dynamics of multi-omics profiles during human aging.” Nature Aging. 2024, 4(11), 1619-1634.
3)Inomata T. “理学療法のための筋の基礎知識―種々の条件による筋の変化および筋委縮とその対応についてー” 埼玉理学療法. 2004, 11, 2-11.
4)Hirata Y. et al. “A Piezo1/KLF15/IL-6 axis mediates immobilization-induced muscle atrophy.” J Clin Invest. 2022, 132(10), 1-14.
5)Holbrook AM, et al. "Meta-analysis of benzodiazepine use in the treatment of insomnia." CMAJ. 2000, 162(2), 225–233.
6)Yamada M. “サルコペニア 予防と改善” 理学療法学. 2013, 40(8), 580-582.
7)中外製薬株式会社. (2011). エディロールカプセル0.5µg, 0.75µg に関する医薬品承認申請資料.
8)医薬品インタビューフォーム リーバクト配合顆粒、ヘパンED配合内容剤、アミノレバンEN配合散
9)医薬品インタビューフォーム ノイキノン錠、ユビデカレノン錠
10)Kobayashi H. “必須アミノ酸によるサルコペニアの予防、治療.” 日老医誌 2012, 49, 203-205.