アニサキスによる食中毒
(アニサキス症)
薬剤師 なお

日本では魚介類の生食文化があります。そのせいか、アニサキスによる食中毒が多発しています。厚生労働省の調べでは、令和6年の食中毒の発生件数1,037件のうち、アニサキスを病因物質とするものが330件(31.8%)と第1位を占めています。
国内のアニサキス症は1965年に報告されて以降、数多く報告されており、1970年代以降の内視鏡検査の普及とともに胃の中のアニサキスの摘出が可能になったことなどから、1999年に食中毒の原因物質として例示されるようになり、発生件数の多さからか、2013年の食中毒統計から病因物質の寄生虫の項のアニサキスとして計上されるようになりました。
アニサキス

アニサキスは線虫という寄生虫の一種で、その幼虫がサバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、イカなどの魚介類の主に内蔵表面に寄生しています。アニサキスの幼虫は、長さ2~3㎝、幅0.5~1㎜くらいで、白色の少し太い糸のように見えます。アニサキス幼虫は、寄生している魚介類が死んで時間が経過すると内臓から筋肉へ移動します。
アニサキスによる食中毒は、その幼虫が寄生している魚介類を生で食べることによる食中毒です。アニサキス幼虫は、ヒトの胃壁や腸壁に刺入して食中毒(アニサキス症)を引き起こします。胃壁に刺入する急性胃アニサキス症は、食後数時間から十数時間後にみぞおちの激しい痛み、悪心、おう吐を生じます。アニサキスによる食中毒の多くがこの急性胃アニサキス症です。
腸壁に刺入する急性腸アニサキス症は、食後十数時間から数日後に激しい下腹部痛などを生じます。その他、胃壁等に刺入しない場合でも、アニサキスがアレルゲンとなる蕁麻疹やアナフラキシーなどのアレルギー症状を示す場合があります。残念ながら、アニサキス幼虫に対する効果的な治療薬はなく、胃アニサキス症は胃内視鏡検査時に虫体を摘出します。腸アニサキス症の場合は痛みなどを抑える対症療法が中心に行われます。ヒトの体の中では、幼虫は通常1週間程度で死んで吸収されると言われています。
アニサキスによる食中毒の予防
アニサキスによる食中毒を防ぐには、次の事項を守ることが重要です。
① 魚を購入する場合には新鮮な魚を選び、丸ごと1匹で購入した場合には、速やかに内蔵を取り除く。
② 内臓を生で食べない。
③ 魚を調理する際には、目視で確認して、アニサキス幼虫を除去する。
また、アニサキス幼虫は、-20℃で24時間以上冷凍することや、70℃以上または60℃なら1分加熱することにより死滅させることができます。一方、食酢での処理、塩漬け、醤油やワサビをつけてもアニサキス幼虫は死滅しないので注意が必要です。
おわりに
アニサキスによる食中毒は全国各地で1年を通して発生しています。家庭では①~③に気をつけ、外でも信頼のできる飲食店や販売店を利用し、安心して安全な美味しいお刺身やお寿司を食しましょう!

(参考文献)
●厚生労働省.食中毒.食中毒|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
●伊藤武,西島基弘.イラストで学ぶ!食中毒の知識.講談社、2022,p,105
●内閣府食品安全委員会.アニサキス症(概要).2017-02-21,
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